最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)512号 判決 1968年9月05日
上告人
小野源次
代理人
佐々木禄郎
被上告人
大倉工業株式会社
代理人
藤原俊太郎
籠池宗平
主文
原判決を破棄する。
本件を高松高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人佐々木禄郎の上告理由について。
原判決(その引用する第一審判決を含む)は、訴外小野正司が上告人から代理権を与えられ、適法な代理人として同訴外人の被上告会社に対する損害賠償債務の弁済まで本件新株五、五〇〇株を被上告会社に担保として提供し、そのうち五〇〇株(篠崎春彦名義のもの)については、売却のうえ、その売得金をもつて右賠償債務の一部に充当することを承諾した旨を認定判断しているのであつて、所論のように民法一一〇条の表見代理を認めているのではない。したがつて、原判決に民法一一〇条の正当理由の解釈について誤まりがあるとの所論の理由のないことは明らかである。
しかしながら職権をもつて調査するに、株式会社が自己株式を質権の目的として受けることは商法二一〇条の禁ずるところであつて、該規定に違反してなされた質権の設定は無効であると解すべく、ただその設定は同条が例外として許容する場合などにおいて有効たるにとどまるのである。しかして、原審の認定したところによれば、被上告会社は自己株式を上告人より債権担保のため提供を受けたというのであるから、原審はすべからくその担保提供が右法条に照らして果して有効であるか否かを判断すべきであつたのにかかわらず、その担保提供をもつて当然有効視する前提に立つて上告人の請求を排斥したのは、審理不尽、理由不備の違法あるを免れない。
よつて、右の点についてさらに審理させるため、民訴法四〇七条一項により原判決を破棄して、本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)